01やみあらしうでなみだいなびかりきさ④でぱC⑤こたD-9---だかうずまたづなうみぼうずかぜ※1いなびかり※2うみぼうずかぜ※3よこなぐけんまくあつそこかどのようかいふくろくるぬのえいこまじょたっきゅうびんはげひとれいねんしゆういおそあらゆうきひとばんすがたふうふみうしな※4んて、とても、とても。風も強くなってきました。ニニたちはたちまち真っ黒な雲にまきこまれていきました。ぐらんぐらんとつるした馬が揺れます。あたりの闇を切り裂くように、稲光が走ります。つぎから、つぎへ。今年は来なかったと言っていた、海坊主風がやってきたのです。それも例年になく、大きいのが。風にまかれ、渦巻きのように回転しながら、ニニは落ちはじめました。「ニニ、下、下!」後ろでブブのさけび声がします。見ると、目のすぐ下に、水面がひろがっています。気がつかないうちに、方角を見失い、ニニはすごい速度で落ちていたのです。横殴りの雨のなか、あわてて周囲を見回すと、小さな島がかすんで見えます。ニニは力いっぱい足をこいで、その島をめざして、おりていきました。山のような波が、どーどーっと小さな島の上をこえていきます。このままではたちまちみんな流されてしまうでしょう。「おねがい、立って!」ニニは馬にどなりました。「歩いてよ!」その剣幕におそれをなしたのか、馬はよろよろと立ち上がり、歩きだしました。たたきつけるような雨と波のなか、あたりをすかしてみると、屋根のようにすこし出っ張っている岩を見つけました。ニニは馬の手綱をひっぱって、そこにおしこめました。馬はひざをつくと、ちぎれるような荒い息をはきつづけています。ニニはその体にしがみついて、「大丈夫、大丈夫、守ってあげるね」と声をからさんばかりにいいながら、でも守ってほしいのは自分もだと思っていました。馬の体は熱く、それがふるえているニニにも伝わってきて、すこし勇気がわいてきました。助けるはずの馬に、ニニは助けられているような気持ちでした。そばにちぢこまってブブもいます。ありがたいことにほうきはこわれていません。あのだいじな洋服のはいった袋も、ぬれてはいても、そこにありました。命もなくしていません。嵐はますます激しく、海の底がわれたかと思うほど、恐ろしい音をたてています。この海坊主風は、いつも一晩はつづきます。このままじっと通りすぎるのを、耐えなければなりません。ニニは気が狂いそうでした。馬はますます苦しそうな息をはき、おなかもぐらぐらと、揺れています。あたりは夜のように暗く、波がひいたときに、ぼんやりとあたりが見えるだけです。ニニは手で馬のおなかをさすりました。そのとき、ニニのなかにノノちゃんのおなかをさすっているキキの姿が浮かんできました。魔女の手は力があるのよ。さすってあげると、丈夫な赤ちゃんが生まれるのよ。キキがそういっていました。⑥ニニは腕で涙をふきながら、また力を込めて、馬のおなかをさすりました。「安心していいよ。わたし、魔女だから」ニニはしゃくり上げながら、馬の耳にささやきました。ふっと馬の動きがとまりました。ニニはあわてて、首にかじりつきました。馬が大きく息をはいたかと思うと、体からするりっとかたまりが出てきました。暗いなかで光っています。生まれたのです。ニニはあわてて、袋をあけ、あのだいじなドレスをひっぱりだして、赤ちゃんの体をおおうと、力を入れてふきました。雨も、風も、いっこうにおさまりそうにありません。しばらくしてまた、馬が大きくふるえ、息をはきました。見ると、もう一頭生まれているではありませんか。ふたごです。波のしぶきの光の中に、二頭の赤ちゃん馬がよこたわっています。ニニは、洋服を布のようににぎりしめ、細かくふるえる体を、かわりばんこに、さすりつづけました。お母さん馬も舌で、赤ちゃん馬をなめています。やがて、赤ちゃんは細い足でよろよろと立ち上がりました。ニニはふーっと気が遠くなりました。※1稲光……かみなりとともに光るいなづまのこと。※2海坊主風……海に住む妖怪の名前をつけられた激しい風のこと。※3だいじな洋服……ニニが旅立ちの日に着ようと思って用意していたドレス。※4ノノちゃん……ニニの母親のキキが、かつて独り立ちした時に部屋を借りていた、パン屋さんの夫婦の(角野栄子作『魔女の宅急便その6―それぞれの旅立ち』より)間に生まれた女の子。−21−
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